「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

青春映画の金字塔を打ち立てた『横道世之介』

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映画『横道世之介』を観てきました。 前評判がもの凄く良かったし、吉高由里子の大ファンだからです。

上映時間160分の長編なのですが、全く長さを感じさせない素晴らしい映画だったので、どれだけ素晴らしかったかネタバレなしに語りたいと思います。

横道世之介のここが凄い① 青春の原風景がある

舞台は1980年代の東京です。当時のぱっつんぱっつんなアイドルもどきや、ちんちくりんなファッションセンスが味わえます。世代的に体験した訳ではないのですが、何やら懐かしい気持ちになります。物語は世之介が法政大学に入学したところから始まるのですが、そこでのサークル勧誘の雰囲気が自分の記憶をありありと蘇らせてくれました。これから何が起こるんだろうという期待と、友達がいない不安、でも、元気が有り余っているからどんどん声をかけたり、かけられたりしちゃう。結局良く分からないサークルに入っちゃって、期待した様なことが起こる訳ではないんだけど、バイトや友人の繋がりなんかで、一緒に行動しているうちに、自分の大学生活が形作られていく。これぞ、大学生活。哲学をかじって妙に諦めた表情をしている先輩や、マスコミ関係の繋がりを作って急にカッコつけ始める同級生もとってもリアル。どこにでもいるんですね、彼らって。でも、この映画の面白いところは、主人公である横道世之介自身が、どこにでもいそうな普通の人だってこと。

横道世之介のここが凄い② 横道世之介と会った事がある様な気がする

実はこの物語は、世之介が関わった友人達が過去を思い出す形で進んでいきます。だから、各場面の主人公は本当は世之介ではないのです。どの場面にも脇役として世之介がいる。そして、一緒に笑ってる。彼は何も特別な人間ではありません。何も特別な才能はないし、何かをやり遂げようとする熱い心を持っている訳でもない。お人好しで、自由で、人懐っこくて、前向きで、エッチで貧乏な普通の大学生です。そんな彼だから、誰しもが、あぁこんな奴いたよなーって思ってしまうのです。確かに名前を限定して出す事は出来ないけど、各場面で、世之介の様に場を和ませたり、大事な場面を一緒に過ごしてくれた友人が必ず居たのです。映画に登場する彼らにとって、それが世之介だった。そして、誰しもが世之介と一緒に過ごした人生の大切な時間を持っている。世之介は、そんなキャラクターなのです。

横道世之介のここが凄い③ 役者が素晴らしい

笑える箇所や感動できる箇所が随所にちりばめられているのですが、それもちょっとした間や言い方で表現されているのです。ちょっとでも、イントネーションを変えたり、言葉の強弱を変えたりしたら、途端にこの感動はなくなってしまうでしょう。そんな絶妙な演技を高良健吾吉高由里子を始め、脇を固める俳優陣が完璧にこなしています。特に吉高由里子演じる祥子は世之介を振り回すほど強烈なキャラクターの中で、ただ可愛いだけじゃない、ただならぬ人間であるところを上手く伝えていました。愛嬌たっぷりなんだけど、絶対に自分の思い通りにはならない子、こういう子に男は魅かれますね。

横道世之介のここが凄い④ 物語が凄い

映画なのに、映画らしい特別な事件は起きません。でも、過去を振り返る登場人物にとって、それは人生を一変させる出会いや事件であるのです。予期せぬ方向に人生が進んでしまうけど、それでもひたむきに生きる彼らを観てると、精一杯生きる勇気を貰えました。

いくら字面で映画の素晴らしさを語っても語りきれる訳がないのですが、それでも言いたい!素晴らしい映画だったと。

金字塔とは、それに続く者達が目印にして道を歩いていくものです。きっとこの青春群像を横目で見上げながら、これからも青春群像が描かれていくのだろうと思います。