「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

金の世界はハッタリ勝負『ライアーズポーカー』

ライアーズ・ポーカー (ウィザードブックシリーズ)/パンローリング
¥1,890
Amazon.co.jp

なんだかネットの記事で随分褒められていたので1年半くらい前に購入した本です。ちょっと読んで、アメリカ人のノリについていけなかったので、止めていました。でも、「投資銀行」ってどんなふうに儲けてやがんだという興味を抑えられず、読むことにした。

舞台は1985年~90年ころのウォール街の王者、ソロモンブラザーズ。 著者自身が新卒で入社し、凄腕野郎になるまでの道のりと、ソロモンブラザーズがどうやってウォール街の帝王に成りあがり、転落したのかを説明した社史に分かれている。全然笑えないという意味で、決して『面白い』本ではない。アメリカ人はちょこちょこ入るブラックジョークに抱腹絶倒するのかもしれないけど。

「まるで食事会に招かれて、行ってみたら自分が料理だったみたいだ!ハハッ!」という感じ。

著者からみたソロモンブラザーズは研修のときから殺伐としており、弱肉強食の世界。なんとか花形の部署に入ろうと、自分を高く見せ、相手を見下そうとする。新人に人権などなく、動物並みの扱いをうける、つまり邪魔にならんところから観てろ、と。でも、こんなのどこの会社でもある光景だろう。会社で限られたポストを奪い合うのは当然だし、新人をゴミ扱いするのもどこにでも見られる風景である。

ここで、ビックリしたのが、ほんの半年で著者が一気に凄腕野郎の評価を得てしまい、二年目で二十二万ドルのボーナスを受け取るのである。たった半年で一人前の仕事が出来、二年で当時で言えば2500万円くらいの報酬を受けるのは異常である。だって、半年で出来る仕事って、全然大したことじゃないんじゃないの?どんなに良い大学を卒業していたって、半年で、長年務めている人と肩をならべることなんて出来ない。めちゃくちゃ簡単な仕事と天分の才のみを必要とする仕事を除いては・・・。前者はイスを並べるとか(これだって名人芸がある)ボタンをぽちぽち押すだけとか。後者はスポーツとか芸術に観られるのだろうか・・・いや才能は絶対必要だけど、半年で肩を並べることなんてできない。あと考えられるのは、運のみに成果を左右される仕事だ。これなら経験もキャリアも関係ない。投資銀行の仕事がどれに当てはまるのかは分からないけど、二つ分かったことがある。

一つ目、「働いている人」が凄いのではなく「仕組みを作った人=ロビー活動した人」が凄い。 二つ目、優秀な人が「大金を稼ぐ」のではなく、優秀な人が「大金を稼げるポスト」に付ける。

一つ目はよく言われることだから飛ばすけど、二つ目は非常に重要な知見だと自分では思っている。ここでいう優秀とは頭の回転が速いとか人望があるとか顔がカッコいいとか何でも良い、とにかく人に「優れている」と思われる要素が何かあることを指す。優秀だから大金を稼げると考えがちだけど、「優秀である」ということは「大金を稼ぐ」理由としては二次的なモノでしかない。つまり、優秀な人が「大金を稼げるポスト」に付けるのである。「大金を稼ぐ」一時的な理由は「大金を稼げるポスト」についたからなのだ。でも、そのポストは限られており、門戸は非常に狭い。そのポストを巡って覇権争いが繰り広げられ、その競争の中で初めて優劣が付けられるのだ。逆に言えば、優秀じゃない人は競争率の低い「楽に稼げるポスト」を探せばよい、ということになる。 だから、ソロモンブラザーズで何億ドルも稼いだのは、その人が優秀だからなのはもちろんだけど、一次的な理由としては「稼げるポスト」にいたからなのである。でも、そのずば抜けた稼ぎが市場の中で自分の価値を肥大化させて見せてしまい、鼻もちならない凄腕野郎になってしまうのであろう。あなたに数千万の価値があるのではなく「あなたのポスト」に数千万の価値があるのだ。

次はソロモンブラザーズがどうやってウォール街の帝王になったかっていう話。すごく簡単で住宅ローン証券化に眼を付けていたから。これはラニエーリ氏の炯眼としか言いようがないけど、儲けの仕組みがちょっとアホらし過ぎる。簡単に説明すると、政府がバックについている住宅ローン組合が破たんしそうになったので、政府が「損を出せば利益を出した時に払った税金が取り戻せるよ」という政策を打ち出した。組合は100円の債権を70円でソロモンブラザーズに売る。すると30円の損が出るので、税金が戻ってくる。そのお金で新たにローンを貸し出し、もっと安い値段でソロモンブラザーズに売る。ソロモンブラザーズは100円を70円で買ってるのである。儲かる、というか増える。組合はそれを延々と繰り返す。貸し出すローン金利より銀行からの借入金利の方が高いので、組合は貸せば貸すほど損が出る、ローンの債権をソロモンブラザーズにたたき売りして損をだす、でも損を出せば出すほど税金が返ってくるのだ。みんなでソロモンブラザーズに金を流しこんでいるようなものだ。結局は税金なんだから。こんな仕組みがほんの数年働いた凄腕野郎たちの数千万、数億円という年収を生み出した。ソロモンブラザーズ帝国が陥落したのは、債権市場が過当競争になったにもかかわらず、次の主役になるはずのジャンクボンドと株式市場の参入に失敗したからだ。

今まで知らなかった世界を垣間見た気がして、読んで良かった。 でも、字がびっちりで結構長い。 5分の1くらいの厚さでもっと密度の高い話にできるんじゃないのかしら。