「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

人間の証明

人間の証明 (角川文庫)/森村 誠一
¥700
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森村誠一の最大のヒット作『人間の証明』を読んだ。荘厳で深遠な雰囲気のあるタイトルに魅かれたのである。 しかも、ミステリーである。期待は膨らむばかりである。 独りの黒人が東京のホテルで朽ち果てるところから物語は始まる。 人間を憎む刑事、ニューヨークのポリス、身体を壊したサラリーマン夫婦、エリート国会議員と教育評論家、さまざまな角度から物語が進み、一つの事件へとそれぞれの人生が収束していく・・・。 はたして、『人間の証明』と冠する真意はどこにあるのか・・・・。 以下、感想。 もう30年以上前の作品なのだから、当たり前なのだけど、すごく平凡なミステリーである。奇をてらったところは一つもない。それぞれの人生が同じ事件に向かっていく様も、予想外というほどではなく、予定調和的でさえある。むしろ、交通事故のくだりはいらないくらいである。サラリーマン夫婦は放っておいて良いんじゃないの。一見、無関係に見える人生がひょんなことから、絡み合い、取り返しのつかない破滅へと落ちていく様は、今となっては当たり前の手法だけど、当時としては斬新で、ここからスタンダードになったのだとするなら、歴史的な作品と言えるのかもしれない。ただ、物語の意外性や手法の奇抜性なら曽根先生の『鼻』の方が100000倍強烈だと思う。 そして、『人間の証明』という大それたタイトルは、ただ善意に訴えて自首させるというところから由来しているだけなのだ。人間の存在を根本から揺るがすほどの救い難い社会の構造的欠陥をえぐっている訳でもなく、人間であることを証明するためには、何が人間性を基礎づけているのかを明確にしなければならない、という展開になるわけでもない・・・一番危惧していた簡潔な最後であった。 自白だから、ミステリーの解決要素としても当然消化不良だった。 旅の暇つぶし程度にはなる。