「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

海を見る人

海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)/小林 泰三
¥798
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奇才、小林泰三先生のSF短編集。 舞台設定からぶっ飛んでいる話ばかり。どの話も物理学の常識の斜め上をいった世界ばかり。高校の物理を少しかじったくらいではまるで理解できなかった・・・・。コリオリ力ってなに・・・? 自分がどれだけ狭隘な世界観の中でモノを見ていたのかを痛感させられた。今目の前の世界だけが絶対ではない、のかもしれない、少し物理法則を変えれば、全てがひっくり返った世界が幕を開ける。そんな気付きを与えてくれる。 小林泰三先生の想像力は僕の様な凡人のはるか上空を滑走しており、丁寧な描写を読んでいても、繰り広げられる世界を想像することもできない・・・砂時計の括れにレンズがハマった世界の重力を巡る冒険・・・もうさっぱりわからない。僕から見れば、全てが魔法のようだし、あり得る世界のように見えてくる。 この世界では軽々宇宙に行けるけども、その方法を読んでいると、じゃあ、実際にも行けるんじゃねぇの?と思ってしまう。彼の論理のどこに穴があるのか、さっぱり分からないのだ。だから、タイムマシンも瞬間移動装置も、宇宙コロニーも実現できると錯覚してしまう。まるで魔法にかけらているようだ。実世界をもサイエンスファンタジーの世界に彩ってくれる。 物理学を多少知っている人(おそらく対象は大学で物理を専攻しているレベル)ならもっと楽しめるかもしれないけど、何も知らなくても、隙間隙間に見える胸が裂けるようなロマンスを楽しむことが出来る。 ハードSF的設定の中で展開される冷徹な論理と不条理な法則に、感情の単純さを対比させることによって、より儚く、美しい人間の愛を浮き彫りにしてくれる。 素晴らしい良作。