「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

深夜特急3

深夜特急〈3〉インド・ネパール (新潮文庫)/沢木 耕太郎
¥452
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やっとインド。カルカッタ、ネパール辺りが中心で、旅の始まりになるはずであるデリーはまだ先。 インドの描写は、初期ほどの熱を帯びておらず、冷静に目の前の景色と自分の感情の揺れを見据える感じ。 旅も続くと、感動慣れしてしまうのかもしれない。 偶然の出会いが神の子の家へと導いてくれ、カースト制の中で生きる人間たちの現実と触れあう場面は、実にドラマチック。これだけで一冊の本を書けるほど濃密な時間が流れていたように思う。 でも、そこに深く突っ込まなかったのは沢木耕太郎なりの旅の流儀なのだろう。 そんなスタイルの底流にながれている思想が3巻のところどころに垣間見えた。 旅人に関するネガティブな側面を真正面から捉えている。 ヒッピーたちが放っている饐えた臭いとは、長く旅をしていることからくる無責任さから生じます。彼はただ通過するだけの人です。今日のこの国にいても明日にはもう隣の国に入ってしまうのです。どの国にも、人々にも、まったく責任を負わないで日を送ることができてしまいます。 だから、旅人としてその国を通るだけで、分かった気になってはいけない。記憶に残った良いこと、悪いこと、その一つだけでその国全てを判断しがちになってしまう旅行譚にはしたくなかったのだ。 だから、神の子の家で過ごした数日から、インドを語ることをしない。 そこで見た風景と、そこで触れた人々との心の交流を描くだけにとどめた。 拙速な判断の留保。 自らの心底から生じた感情の揺らぎのみを描きとめてみる。 それだけが人々の暮らしにふらりと現れては消える旅人の正しい振る舞いなのかもしれない。