「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

エッジ

エッジ 上 (角川ホラー文庫)/鈴木 光司
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エッジ 下 (角川ホラー文庫)/鈴木 光司
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あの、リングらせんの作者、鈴木光司の作品。 霊的な怖さは苦手なので、リングらせんは読まないけど、本作品は、そういう系統ではなかった。 科学的ホラーの究極地点と言って良いかもしれない。科学ホラーという意味では「ジェノサイド」の恐ろしさとも少し被る。 しかし、ジェノサイドが地球の生命全般にかかわる革新がキーになっていたのに対して、エッジはこの世の全てが対象になっている。つまり、風呂敷がとてつもなくデカイ。 人間が消失してしまう事件をきっかけに、世界各地で不審なことが起る。カリフォルニアの砂漠で突如現れた地球の亀裂がエッジがタイトルの由来だ。 メインテーマは非常に良かった。こんな種類の恐怖があったのか、というぐらい怖かった。自分が死ぬでもなく、大事なものが殺されるでもない、地球が滅亡するのでもない、ただ知覚できる世界が全て消滅する・・・巨大すぎる未知に全てが飲み込まれる恐怖。今の世界がどれだけ危ういバランスの中にいるのかを気付かされる恐怖。心臓の鼓動を聞きながら、次で止まるんじゃないか、と心配する恐怖と似ている。 フェイズトランジションとタイムワープ、古代遺跡の謎を結び付けたのは見事としか言いようがない。未知のモノが迫りくる恐怖と既知の恐怖の選択を迫られるシーンは圧巻だった。さらに、主人公の冴子の最後の説得もカッコいい。生物とはこう生きるしかない、という熱い思いは痺れた。 ただ、この大構想を父上の失踪と関連付けたのは良くなかったんじゃないかと思う。複雑に絡まった事象を感じ取ることができる第三の乳首を持つ人間、ジェノサイドの新人類に少し近い存在と言えるかもしれない。彼らがお互いだけに分かる理屈で行動し、物事はそういうものだ、と言って、他の人々を巻き込んでいく経緯は、全く合点がいかなかった。なぜなら、凡人では理解できないことを理解する人、と定義づけられているのだから仕方ないけど、こういうところに設定の甘さがある気がする。 科学とホラーを結び付けるところで、ところどころ粗い部分があって、それが気になった。 ジェノサイドなんかは、素人の僕には全く分からない世界を描いており、あまりの下調べに感嘆したものだけど、エッジは僕でもこれはおかしくねーか、と思う箇所が何個かあった。 ただ、メインテーマは素晴らしい。もう少し細かいところをつめれば世界を震撼させるベストセラーになったろうに、それがもったいない気がした。 それを差し引いても傑作であることは間違いない。しつこいけど、傑作過ぎるからこそ、細かいところが惜しまれた。