「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

悲しき熱帯Ⅱ ①

悲しき熱帯〈2〉 (中公クラシックス)/レヴィ=ストロース
¥1,628
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やっとⅡに行けたー。自分の固まった思考回路にキックを入れるには良書だけど、すげー疲れる。


P203 もし、文字の出現を文明を特徴づける何かの徴と結び合わせようとするなら、別の方面を探らなければならない。文字の出現に忠実に付随していると思われる唯一の現象は、都市と帝国の形成、つまり相当数の個人の一つの政治組織への統合と、それら個人のカーストや階級への位付けである。中略、文字は人間に光明をもたらす前に、人間の搾取に便宜を与えたように見える。中略、文字というものは知識を強固にするには十分でなかったにせよ、支配を確立するためには不可欠だったのだろう。

新石器時代に勧めた人類の進歩に比べて、文字を発明してからの人類の歩はギリシャ・ローマ時代から、ほとんど変わりがないという。そこから導き出される結論は上記のように、文字とは政治的支配の利器に過ぎないというものである。それを証拠に、文字のなかったインカ帝国は優れた文明をもっていたが統治機構は長続きしなかったし、アフリカ大陸の文明を西洋社会ほど大きく長い期間支配することはなかった。法の周知は文字の理解を絶対とするからである。いささか乱暴な論調の様な気もするが、その発想はなかった。まさに目からうろこである。


P274 子供のころから、海は私に錯綜した感情を吹き込んできた。海岸線とそれを伸ばす引き潮で人間と領界を争いながら定期的に退くあの縁飾りとは、それらが人間の企てに向かって挑んでいる闘いや、包み隠している思いがけない世界、人を喜ばす観察と発見で想像力に対してしている約束によって、私を惹きつけてきた。私が1400年代の他の巨匠の誰にも増して愛着を感じているベンヴェヌト・チェリーニのように、私も潮が置き去りにした砂浜をさすらい、切り立った岸が強いている迂回する道筋をたどりながら、穴を穿たれた小石や、擦り減って幾何学模様の形を変えてしまった貝殻や、キマイラの姿をした芦の根を拾い、こうした残骸でひそかな博物館を拵えるのが好きだ。わずかのあいだなら、それは傑作を集めた博物館に少しも引けを取らない。第一、世に傑作とされているものも、精神の外にではなく内に座を占めようとする限り、自然が満足するような作業と基本的には異ならない作業から生まれ出ているのである。

レヴィストロースのすごく庶民的で可愛らしい趣味に表情が綻んでしまう描写だ。人間へのあくなき探究心はこうして、何気ない自然物にも向けられている。