「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

九月が永遠に続けば

九月が永遠に続けば (新潮文庫)/沼田 まほかる
¥660
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エログロサスペンスと紹介されていたので、衝動買い。 読んでみたら、エロもグロもそんなに大したことない(耐性が付きすぎたせいか)。 でも、サスペンスとして非常に優れている。感情表現や情景描写がすごく巧いし、キャラクター設定も独創的だ。 このクオリティで著者の処女作とは驚く他ない。 主人公はバツイチで高校生の男の子を育てる主婦、佐知子。主人公が主婦、という小説をかつて読んだことがあったか・・・なかった気がする。自分と価値観を異にする視点で観る物語というのも面白い。息子を思いやる気持ちや、別れた夫へのわだかまりなど、自分には全く経験のない感情だけど、描写が巧いので引き込まれてしまう。 物語は次々、不審な事件が続き、読み手を飽きさせない。息子の突然の失踪、佐知子の浮気相手の死、別れた夫の連れ子の自殺・・・・など、それぞれが関連性のない顔を見せながら、どこかでもつれ合っている。 その糸口はどこにあるのか、ハラハラしながら読み解くことができる。自分が何も気づかないまま知らないところで、何気なく一緒に暮らしていた人達の情念が残酷なほど膨れ上がり取り返しのつかない事態に達してしまう、が何が起っているかは全く分からない。という状況ほど恐ろしいモノは無い。普段の生活が平坦で穏やかであるほど、強烈な伏線となって、かつての価値観を全否定しなければならないほどの外傷となる。 そんな生活の転換点のお話。あり得ない話ではある。でも、あり得なかったら怖くない。ということは、あり得るのかもしれない。 ただ、いつでも裏表もなくデリカシーもない服部という登場人物のお陰で、この残酷な物語の最後に温かい灯りがともされる。最初は嫌悪の対象でしかない男でもこれほどの存在になれるとは・・・これも、著者の構成力がなされる技である。 面白い本だった。