「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

天使のナイフ

天使のナイフ (講談社文庫)/薬丸 岳
¥700
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ずいぶん前にアマゾンでなんとなく買った一冊。なんとなく読むタイミングが来た気がしたので読んだ。 生後5か月の娘の目の前で妻が殺された主人公。 犯人は13歳の三人組。未成年の可塑性という名目で、少年法に守られる加害者。少年法の壁に撥ねつけられ、最愛の人を何故失わねばならなかったのかも分からない被害者。 突然愛する妻を失った主人公の目線から、つまり被害者の目線から、少年法の問題点にもがき苦しむ展開から読者を物語に誘う。犯行の動機も、今どこで何をしているかも知らされない。個人情報の保護、少年の社会復帰の為、という名目で・・・・。人を殺しているのに・・・である。少年の人格は社会が育てるものであるとしても、人を殺しても罪に問われない少年法とは何だろう・・・と一緒に頭を悩ませてしまう。 確かに罪を悔い改め、社会復帰した少年たちもいる。彼らが社会に貢献した役割も計り知れないだろう。それでも被害者の心はいつまでも慰められることはないのだ。と、まぁ。そんな感じの話が7割くらい。 ところがどっこい。この小説の凄いところはそんな単純な2項対立の延長を目指しているのではないところだ。 この2項がねじれるねじれる。 勧善懲悪、善と悪の二項対立だった世界が・・・大転回。 妻は少女時代、暴漢に親友を奪われたが、少年法によって加害者のことは分からず。 夜遊び中に男に絡まれ、友達を助けるために男を殺害。 無垢な被害者であった妻が少年法に守られた殺人犯だった・・・ そして、自分を守ってくれた弁護士は親友を殺した後、更生した男だった。 殺された男の娘は彼女を恨み、少年に殺害を依頼。 少年は妻を殺害。 もう何が何だか・・・ ねじれてねじれて出た答えは「それでも愛してる」だった。 描写や感情表現は、そこまで巧いと感じる文章ではなかったけど、物語の構成が凄い。 よくこんなにねじれた世界を発想できたなぁと感嘆するばかり。 ミスチルの『風と星とメビウスの輪』を思い出した。