「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

悼む人

悼む人〈上〉 (文春文庫)/天童 荒太
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悼む人〈下〉 (文春文庫)/天童 荒太
¥580
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永遠の仔』の衝撃から、10か月ほど。天童荒太の作品は二本目。しかも第140回直木賞受賞作。 不慮の死を遂げた人々を「悼む」旅を続ける男、静人。彼は、亡くなった現場へ足を運び、その人が誰を愛し、誰に愛され、誰に感謝されたかを聞いていく。冥福を祈るでもなく、死因を探るでもない、加害者を呪うでもない。ただ、その人が生きていたことを胸に刻む旅を続ける。その行為は、「悼む」と呼ばれる。 センセーショナルな殺人事件を嗅ぎつけ、人の欲望の醜さを暴露する記者、蒔野。 息子、静人の帰りを待つ末期がんの母親、巡子。 愛していた夫を殺し、刑務所から出てきた女、倖世。 彼ら3人の視点から、静人の半生と現在を浮き彫りにしていく。 人間の死と真っ向から対峙する非常に難しい小説である。死に方にはいろいろあるし、彼らの人生もそれぞれ全て違っている。でも、忘れられていい死とそうでない死があるはずがない。そんな強固な意志があったんだと思う。 静人の悼みはすごく個人的なものである。彼の解釈で誰を愛し、誰に愛され、誰に感謝され生きていたか悼まれてしまう。すごく自分勝手に見える営みだけど、蒔野の死を彷徨った時の叫びで納得がいった。 ばかばかしくくだらない人生だったと誰もが思っている、自分でもそうかもしれないと感じている。 けど、少しでも良い瞬間があったことも確かで、そんなくだらない自分の人生を掬いあげてくれる人間がいる、と知っているだけで、独りぼっちの死を受け入れることができるのかもしれない。 静人は人間の救世主である。普通の死も特別な死もない。全てが特別な死しかないのである。 あなたは悼む人になれますか・・・? と問いかけられている気がした。