「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

永遠の仔

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読むのに1カ月以上かかった。

平日の夜の時間はほとんどこれに取られてしまって、勉強の時間が取れなかったほどだ。

しかし、圧巻だった。

これほどまでの小説とは思っていなかった。

心にグサリと突き刺さりしばらく身動きが取れなくなってしまった。

2000年の『このミス』一位に輝いた作品だが、もはやミステリーのカテゴリーで分けて良いものかどうかも分からない。

確かにミステリー的要素もあるし、そこだけをとっても良くできている。読者を引きつけて最後に裏切るところも実にうまい。

でも、この小説が圧倒的なのはミステリー的な読み応えのおかげではなく、人生が生む無限の苦しみと悲しみを繕うことなく書きあげているところにあると思う。

メインテーマは児童虐待。だがそれを敷衍して親と子のあらゆる関係を描ききっている。

幼年期の関係と老後立場が逆転した関係。

子供のせいで人生を壊されたと思う親。親に人生を壊される子供。

死を迎えるだけの老人とそれをケアしなければならない現実。

絶望しか見えない状況の中で人はどうやって希望を見つけるのだろう。

被害者目線でしかモノを見ていない!

加害者の死を軽視しすぎている!

といった社会通念的な批判はこの小説の中では全く無効化される。

自分の人格形成が上手くいかない状況の中で複眼的にモノをみることはない。だからこそ、悲劇なのである。ただ、自分が生きていくために必要な愛情を求めているだけ。それは誰にも認められる必要もない、人間の権利、いや人間の存在条件なのだと思う。

ただ、目の前にいるその人と繋がっていたい、その初期の欲求が満たされない人間はどうなってしまうのか。

一生涯、手にすることができないのだろうか。

いや、そうではなかった。

彼らがいたのである。

無条件に「生きてて良いんだよ」と認めてくれる彼らが。

ミステリー、サスペンスを超えた人間ドラマ。壮大なラブストーリーだった。

大きな愛を求め続ける人間の物語だった。

彼らに拘わらず、人間は常『生かせてくれる』人が必要なのだ。

人間は非常に弱く、寂しく、悲しい。

だから、愛情は強く、優しく、温かい。

日本小説史上に君臨し続けるであろう大傑作だった。

この本に出会えて良かった。