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「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

街場の共同体論/内田樹

人文科学

3ヶ月に一度は読みたい内田先生の新刊です。少し急ぎ過ぎて疲れた頃、働き過ぎて自分を見つめ直す時間が取れない頃、内田先生の本が心にじわっと染み渡ります。

この本で言っていることに特に真新しいことはありません。いつも内田先生が言っていることです。”社会には一定数大人が必要である”、”グローバル資本主義の発想だけでは見落とすものが多過ぎる”、”もっと肌触りの良い繋がりの中で生きようよ”ということです。でも大事なことは、繰り返し繰り返し何度も何度も、違う場で、違う例えで頭に入れることで、ようやく習慣となり潜在意識に入り込み、血肉化していくものなのです。

何度も読んでいる内容だけども、毎回心にささる箇所が違うのが内田本のすごいところです。今回は特に二つ挙げてみます。

P30 人間的にどんなに立派な男性でも、ろくでもない男でも、ひとしく妻と娘の前でコンビの前では無力である。中略、これは父親個人の人格とか力量とは無関係です。そういうふうに親族が構成される様になったということですから。

父親の体面というのは父権制という擬制の元に担保されていたものですので、”何で父親が偉いの?”、”家族も民主的に運営しようよ”と声高に叫ばれた瞬間、バラバラに解体されたのです。もちろんどんなことにも例外はありますが、一般的に、子供の気持ちや能力のことは母親の方がよく分かるに決まっています。だって子供は母親の方が好きだから。優しいし、柔らかいし、母乳くれるし、そこから産まれたんだし。”父親は訳もなく偉いんだ”という定言命法で家族を律しないと、父親の地位は母子の前では完全に無力になるのは、なるほど当然の帰結です。しかも、かつての無限権力を要した父親像を毛嫌いし、積極的に解体作業に加担したのは、今の父親世代な訳ですから、自らが父となった時に、権力を求める訳にはいかない。こうやって、家庭に居場所のない父親が生まれたわけです。彼らは、何となく家に帰る時間を遅らせたいと思い、平日に若者を飲みに誘い、土日にゴルフコンペを開催するのです。そう考えると、社内のオッサン達の行動原理がすごくクリアに理解出来ました。

P83 子供に必要なのは、もっと静かで、安定的で、内省的な時間なんです、それがないと身体も心も成長出来ない。

哲学者カントは毎日同じ時間に同じ道を通り、そこでの微細な気分の変化をてがかりに新しいアイディアを創出していたとか。外部環境をより静かに、より安定的にしないと、自分の小さな変化を捉えることはできないっていうのは確かにありそうな話です。外部環境の劇的変化に適応しようと、自分を変えていくのも人生に何度も必要なことですが、現代社会はそんな変化が多過ぎるような気がします。子供のときくらいは、優しい手触りの良い空間で教育させたいですね。

大きな芝生のある公園のそばにマンションを買って良かったと思いました。私も静かで安定的な生活を送りたいです。