「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

タックスヘイブン/橘玲

6年前、卒業旅行の飛行機で『マネーロンダリング』を読んだ衝撃を忘れません。世の中にはこんなことを考えている人がいて、こんな暮らしをしている人がいるのかと社会人生活にワクワクしたのを覚えています。実際は全然関係のない、泥だらけの業界に入った訳ですが…。

本書は『マネーロンダリング』の怪しさと格好良さを引き継いだ、ハードボイルド金融小説です。気障で退廃的で切れ者の主人公、古波蔵。さえないフリー翻訳者、牧島。エリートプライベートバンカーの妻、紫帆は高校の頃の同級生。シンガポールでエリートバンカーの不審死が見つかり、ある銀行から100億円が消えた。そこに見え隠れする大物政治家と仕手グループの影。それぞれの思惑を抱きながら、幼なじみの3人が真実を暴いていく物語です。

久しぶりにページを開くのが楽しみな小説でした。何が楽しいって、”こんなに大金を手に出来るポジションが世の中にある”ということを想像するだけで、ゾクゾクしてくるのです。大物政治家、プライベートバンカー、それにたかる情報屋。この世界のどこか、コツコツ稼いだ庶民のお金があつまる場所で、何十億円、何百億円というお金が一瞬で奪い奪われているらしい。

大金を得たり、失ったりする人生は小説だけで充分ですが、もしかしたらこんな人生を生きていたらどんなだったろうと想像を巡らすともう一つの人生を追体験できたようで楽しい気分になりますね。

そして、今回の舞台となったのが、シンガポール。丁度、シンガポール出張中に読んでいたので、マリーナベイサンズの描写や、気怠い空気感なんかも共有出来て、より臨場感を持って楽しめました。

香港やスイスの金融業界が崩れ始めている昨今では、シンガポールが次のタックスヘイブンとして注目されているらしい。確かに、めちゃくちゃ物価は上がっていましたし、マンションもニョキニョキ建っていました。地下鉄の建設計画も次々進めており、シンガポールの発展は留まることを知りません。世界の怪しい金を取り込み、怪しい人間を取り込み、摩天楼が次々闇に伸びていく街シンガポール。いま、世界で一番暑い街かもしれません。

あり得る話なのかは素人目には全く分かりませんが、世界の中心を生きている金融業界への憧れが強くなる小説です。