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「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

海賊と呼ばれた男/百田尚樹

ビジネス本 小説

第10回本屋大賞を受賞し、150万部突破したという本書。出光興産の創業者、出光佐三をモデルにした歴史経済小説です。上下巻あって、かなり長いです。

そこそこ面白い小説ですが、そこまで人を熱中させる魔力を持った話ではない気がします。たしかに、この物語の主人公、国岡鐵造はパワフルで情熱的で、魅力的です。ただし、一代で世界一の企業を作り上げたとか、世界をあっと驚かせる発明をした、とかそんな人物ではありません。飽くまでも、一企業の経営者が、従業員や銀行員、官僚と一緒に戦争や規制を乗り越えていくエピソードなので、すごく地味です。当時の経営者はみんな同じ様にして、苦難を乗り越えていったと言われれば、そんな気もしてきます。

出光興産は世界一の石油会社ではない。日本一ですらない。ただ、民族系石油元売会社として日本一である、というところに価値があるらしい。この民族系という意識が、主人公の第一義的な行動指針となっているのがポイントです。つまり、エクソンモービルとかシェルとかの息がかかってない、純粋に日本人だけで経営されている企業ということです。石油はあらゆる産業の土台であるから、そこが外資系に乗っ取られれば、日本の経済界は全て蹂躙されてしまうだろうという危機意識が、国岡鐵造をして、艱難辛苦な道を選ばせます。

そこが分からないのです。経済活動はボーダーレスであることが前提となった現代に生きているから理解が出来ないのでしょうか。外国資本が入ってくるということが、なぜそんなに嫌悪されるのか、なぜそこに拘るのかを疑問に思うと、国岡鐵造が蛇蝎の如く嫌う石油組合側の立場に立つことになってしまい、全く感情移入できなくなります。外国から石油を購入することや、業務提携は良しとして、外国の資本を受け入れるのがダメな理由を誰か教えて下さい。

散々にこき下ろしましたが、石油業界の歴史や、日本の近代史の勉強には優れた小説かと思います。”大東亜戦争”という言葉選びに冷や冷やすることもありますが、本屋大賞に選ばれたのはさすがです。