「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

孤宿の人/宮部みゆき

長い間、更新できなかった訳は、この大長編を読んでいたからであります。上下あわせて1000ページの時代小説。実は宮部みゆきの作品を始めて読みました。

舞台は徳川家斉時代、四国の小さな丸海藩という架空の国での物語です。旦那と女中の間に生まれ不遇の幼少期を生きている主人公ほう、女ながら引手として働く宇佐、を中心に四国の小さな藩の怪事件を描いています。

架空の藩にも関わらず、時代考証が非常に緻密で、この小さな藩に生きている人々の息づかいが聞こえてくるようです。町に生きる人、港に生きる人、お医者様、お役人、商人、武士など、物語の主流で描かれている訳ではない人々の暮らしも、物語の外で、同時間にも彼らが生きていることがありありと感じられる小説です。ジブリの映画は、主人公の家だけ見ても、その周りの町に生きる人々の暮らしや、描かれていないタンスの中身にもリアリティが感じられるでしょう、それと同じです。人々の会話で選ばれる言葉や、風景、感情描写の中に、微細に描かれている訳ではない事物の影響を少しずつ組み込むことで読んでいる人に言外のリアリティを感じさせるのかもしれません。さすが日本最高峰の作家さんです。

物語は、徳川幕府の勘定方奉行という重職につきながら大罪を犯し、丸海藩幽閉の罰を受けた加賀様が加わり、様相を転じます。社会を操ろうとする上層部の思惑に踊らされる市民達、噂や迷信に我を忘れる人間もいれば、そこに便乗し私怨を果たすものもいる。政治的な確執の話や、田舎町のどろどろとした人間関係を発端にして数々の事件が起きます。そんな非常に胸の詰まるような内容も多いのですが、その分、ほう、宇佐の純粋な想いがより晴れやかに感じられ、読者は彼女らを精一杯応援したくなるのでしょう。

この世界観は素晴らしい。風光明媚な丸海藩の空気を吸い込んで、彼らと同時代を生きてきたような気にもなれる。ただミステリーとしてはかなり薄いし、死があまりにあっさりとし過ぎている様な気がします。

あと、長い・・・。