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「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

本格小説 水村美苗

本格小説〈上〉 (新潮文庫)

本格小説〈上〉 (新潮文庫)

本格小説〈下〉 (新潮文庫)

本格小説〈下〉 (新潮文庫)


小説好きなら知らない人はいないでしょう。水村美苗の「本格小説」。

高校3年生の頃、部活もせず、恋もせず、本ばかり読んでいた私はクラスで完全に浮いた存在でした。高大一貫校だったので、受験勉強もない18歳。当然、学校中、怠惰な雰囲気に包まれ、どれだけ楽して進級できるかを競うような世界です。アホずらで、「やばくね?」「素で?素で?」と繰り返しているクラスメートを尻目に、私はずっと読書に没頭していたのです。

そんな青春時代に、出会ったのがI君。当時、ゲーテの「ファウスト」を読んでいる私に声をかけてくれました。

「小説好きなんだね?俺は罪と罰を読んでいるよ」

「あぁ、罪と罰ならとっくに読んだが?」

これが私とI君との出会いでした。

海外小説ばかり読んでいた私に、日本の小説の面白さを教えてくれたのもI君でした。

「「本格小説」というのがやばいよ」
「素で?素で?」

そう。本当は私も同級生の輪に入りたかったのです。


というわけで、私が本格小説を読んだのは今から12年前です。その時の衝撃が忘れられず、再読しました。


この小説は、水村美苗本人、水村に語りかけている祐介、祐介に話をしている富美子という3重の入れ子構造で富美子が見てきた東太郎という男性の人生に焦点を当てた話です。富美子のフィルター、祐介のフィルター、水村のフィルターを通して戦後の軽井沢から平成バブルへの激動の時代を生きた人々の生き様、恋愛模様が展開されます。


実はこの小説には、最後に大どんでん返しがあります。

なので、一度目と二度目では読み方が180度変わってしまうのです。一度目の衝撃は今でも覚えています。I君と一緒に驚きました。

でも12年経った今、二度目読み返して、どうして、「そのこと」に気づかなかったのかが不思議なくらいでした。まだ高校生で男女の関係の深みを知らなかったからなのか。富美子のフィルター、祐介のフィルター、水村のフィルターによって、そのことが意図的に隠されていたからなのか。

「そのこと」を知りながら読む本格小説は、また別の感覚を読者に与えます。

人間の感情の複雑さに目眩がする。
幸せも成功も何の意味があるのか分からなくなる。


月9のようなくだらない恋愛ドラマに飽きた大人におすすめの純愛小説です。
これを純愛と呼ぶのなら。