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「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

ビッグデータと人工知能 可能性と罠を見極める 西垣通

最近のバズワード人工知能」の可能性について冷静に分析された本です。

昨今では、どの業界でも「人工知能」が話題になっています。機械が自ら学び知能を深めていく深層学習(ディープラーニング)によって、機械の知能が人間を追い抜き、世の中のあらゆる仕事がロボットによって代替されるであろう、という未来予測もにわかに囁かれています。そんな楽観的?悲観的?というか極端な人工知能論に否を突きつけるのが本書です。本書のポイントは3つ。


1、深層学習のからくり

1950年代に第一次人工知能ブーム、1980年代の第二次人工知能ブームがありました。第一次人工知能ブームは厳密な論理処理によってスピーディーに回答を導き出すものです。オセロなどの単純なゲームでは成果を出し、今後の発展が期待されました。しかし、将棋などの複雑なゲームや翻訳、売上予測など厳密に論理処理できない活動には全く太刀打ちできませんでした。そして第二次では論理ではなく知識を活用することになります。過去にどんな事例があったか、常識的にはどんな判断が多いのかを織り込んで回答を導き出すのです。しかし、どんなに論理計算を早めても、知識を詰め込んでも、刻々と変わる現実に対応しきれる人工知能は生まれない。そこでビッグデータによる「統計」という考え方が出てきたわけです。過去の事例、さらにこれからも出てくる事例をどんどんデータベースに詰め込んで、論理と知識と統計によって「大体合っているだろう」という回答を導き出せるのが第三次人工知能ブームの考え方です。つまり革新的な技術開発が人工知能のレベルを推し進めた訳ではなく、データ処理が早くなったのでビッグデータを集計できるようになり、過去の事例からそれっぽいものを導き出せるようになり、「厳密には合ってるかわからないけど、大体合ってればいいだろ」と開き直ったことが新たな道を切り開いた訳です。



2、機械と生命の違い

P201 生物は現在の状況に応じた柔軟な問題設定と情報の意味解釈によって生きていく自律的存在であり、他方機械は指令通りのアルゴリズムで過去のデータを形式的に高速処理する他律的存在である。おもてむき自律的に見える人工知能ロボットも、内実は過去のデータを統計処理して問題を解決するにすぎない

この一言が全てです。どんなに複雑な情報処理をしたところで、問題設定や概念規定を機械が行うことは絶対にありません。なぜなら問題設定とは人間が生きるために立ち現れる問題のことであり、概念規定とは人間がこの世界をどうとらえるかによって変わるものだからです。なので機械が人間に代わってそれらを行える訳がないのです。「いやいや人間だって自分以外の人間は意識があって世界をとらえているのか」なんて証明できない。とすれば、機械にだって問題設定、概念規定はできるんじゃないか?という考え方もありえます。でも、その世界観を前提に持つと、いま現在の世界ですら、自分以外は機械のような得体のしれないものであふれた世界なので、機械の時代が来ようが来まいがどっちでも良いことになります。なので、その前提は人工知能論では不要です。


3、人工知能の使い方

人工知能ではなく知能増幅を!というのが著者の考え方です。問題設定や概念規定を行うのはこれからも人間であり続けるので、機械は人間の判断を助けるために過去の知識、経験を論理処理して最もそれらしいアドバイスをする、そういう使い方に限定されるべき。つまり、いま現在の人間と機械の関わり方の延長ですね。



文章の中には欧米に対する「一神教の考え方」という判定が随所に見られるのが少し乱暴ですが、とても勉強になりました。