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「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

それを言っちゃおしめーよ、な悩み相談『好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則』  楠木建

ビジネス本

このブログに紹介されて手に取った本です。御多分に洩れず、私も衝撃を受けました。素晴らしい本を教えてくださってありがとうございますShinさん。

www.outward-matrix.com


読み終わった瞬間、2週目を読み始めたビジネス書はこれがはじめてかもしれません。2回目を読み終えた頃には付箋だらけになっていました。

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著者は一橋大学大学院の教授・楠木建先生。専攻は競争戦略。読者からの50の質問に対して、競争戦略論の観点から論理的かつ明快に応えてくださいます。論理的ばかりでなく、「”感情”をもっと大事に扱ってください」という基本姿勢が読んでいて非常に気持ち良い。

ほぼ、”だって、そんなもの好みだから「好きなようにしてください」としか言いようがないもん”という回答です。でも、その回答から続くアドバイスや質問者の言葉の端々から醸し出す”素直さ”や”ずるさ”を引きずり出す様が、エンターテインメント性を持っていて痛快です。

本書にちりばめられている金言をいくつか紹介します。

P3 仕事を選択しようとしている以上、仕事の内実が基準になるべきです。環境評価、環境比較にはたいした意味はありません。環境決定論の怪しさは、現実の世の中を生きている人々が日々身を以て証明しています。同じ環境にいるのに生き生きした人とそうでない人がいるのはなぜか。その人の個人としての仕事や生活の内実、すなわち内生的な要因のほうが、環境という外生的な要因よりよっぽど説明能力が高いのは明らかにです。


大企業が良いのか、ベンチャーが良いのか、悩む就活生へのアドバイスです。問題は環境ではなくて、自分自身が何をしたいか、だと。

私自身、新卒で入社した会社が退屈でばかばかしすぎて毎日腐っていましたが、転職をして今は毎日楽しくて仕方がありません。たしかに今の会社は前の会社と比べて、建物が新しくて清潔、給料が段違いに良くて社員教育への投資も惜しみない、同僚は容姿端麗ばかり、などなど環境要因の変化もありました。でも、もっと大事なのは「自分のやりたいことが出来る」ことだと思います。前の会社は会社の歯車の中の一つの歯になって、右からきたものを左に受け流す作業ばかりでした。


今は、自分の頭で0から1を生み出すことを”期待”されています。(期待であって強要ではありません)私にとっては、こういう働き方が向いていたという話なんだと思います。別に建物が汚くても、給料は安くても、「働く」ことに関して言えば、仕事の内実に焦点を当てれば良い、その通り。環境は前の会社と同じでも「やりたいこと」が出来れば、きっと転職することはなかったでしょう。


でも一方で、「体に優しい社員食堂で健康を保つ」とか「保養施設で疲れを癒す」とか「素晴らしい容姿の女子社員に囲まれているだけで幸せ」という意味では環境決定論も真なのでは、という気もしています。

P12 「モノを売る」というのは、いつの時代でも、どんな業界でも、会社にとって最も価値がある力なのです。


本当にその通りだと私も思います。新入社員の時から営業をやっていましたが「人からお金をもらう」ということが一番難しい。人からお金をもらうということは、「相手の気持ちを汲みとらなくてはいけない」「もし何かあったときは全ての責任の窓口として機能しなくてはいけない」「お金をもらえなかったら全ての事業は成り立たない」ということを意味します。今まで培ってきた知識、経験、人脈、体力の全てが試される地平、それが営業です。


経営戦略を考えるのも良い、管理会計上の数字を計算するのも良い、研究開発で新技術を生み出すのも重要だ。でも、ことビジネスとなると、やっぱり売らないと、どうにもならない。どんなに理不尽でワガママで頭のおかしい人でも「売る人」はビジネス上の能力のある人です。(あくまでビジネス上ね。あと不正はだめね。)


ビジネスの唯一の真実は「”良いモノは勝手に売れる”と思っている会社は潰れる」だと私は思います。

P57 そもそも、人を評価するというのは、多くの人にとっては愉快なことではありません。きちんと双方向的なコミュニケーションを重ねた上で、相互の納得で着地できるような評価というのは、ものすごくコストがかかります。


「評価はコスト」、この考え方にはヒザを打ちました。私も今までは部下のいないペーペー社員でしたが、この4月に昇進し、管理職ではありませんが、ちょろっと役職がつきました。後輩もいます。彼らを納得させる形で評価をして、モチベーションを高めながら、会社のパフォーマンスも最大化するというのは、並大抵のことじゃない、そのことは想像できます。ちょっと上司の気持ちも考える目線を持とうと思いました。


P70 あなたに限らず、なぜ世の親がこうした類の思い込みを持って子供の進路にあれこれと口を出したくなるのか。その理由は単純で、自分の一人の一回きりしか生きたことがない人生をそのまま子供にもあてはめて考えるからです。「日本の大学に行ってもたいした能力が付くとは思えません。貴重な4年間の浪費になるのではないかと心配」とのことですが、これはあなたが大学でたいした能力を身につけられなかった、今から振り返ってみると貴重な4年間を浪費した、というだけの話なのではないでしょうか。


この言説に楠木先生のあふれる知性が表出しまくりやがっています。質問者と同じレベルで考えていたら「いえ、私は日本の大学で経営学を教えているので、日本の大学にも良い教育がありますよ」とか「そうですね、日本は成熟市場なのでこれから海外で活躍できるグローバル人材になる必要があります」という答えになります。

でも、楠木先生は一段上のレベルからこの問題を捉えている。英語が必要か不要か、日本の教育の質は良いのか悪いのか、といった問題を自分の経験から答えるのではなく、「その二元論の問いに収まっているあなたの世界観をまず疑ってはどうですか」と投げかけている。

自分が知っている情報や自分の持っている価値観だけを高く評価し、それに疑いを持たない態度をバカと言い、逆に自分の持っている情報や経験や価値観を疑い、ここからここまでは分かるけども、ここからは分からないと言える人のことを「頭が良い」というのです。その意味で、楠木先生は本当に頭が良い。(当たり前ですね、大学教授なんだから)この回答を読んで、楠木先生を先生と呼び、著作を全て読んでみようと決めました。

P80 「結婚に重要なことは三つしかない。第一に我慢、第二に忍耐、第三に耐え忍ぶ心」


絶対友達になれる・・・。


P96「いい仕事をする」とはどういうことか。これにしても、答えは実に単純です。自分以外の誰かの役に立ったということです。大きな仕事を成し遂げたということは、すわなち自分以外の誰かに対して、大きな価値を作ったということです。

「意識が高い人」と「意識高い系の人」の明確な違いはここかもしれません。前者は「こうやって人々の役に立ちたい。世の中を変えたい」という風に意思が外に向いている。でも後者は「役に立って注目されたい。世の中にインパクトを与えるような自分になりたい」という風に意思が自分だけに向いている。楠木先生風にいうと前者が「仕事」、後者は「趣味」です。仕事を趣味のように語られるから意識高い系の言葉には何か違和感を感じるのかもしれません。さらにこう畳み掛けます。

p 100 大事なのは物事の順番です。まずは、その時に自分が与えられた仕事で結果を出す。それがみんなのためになり、頼りにされるようになる。この「頼りにされる」というのが仕事の非常に重要な基準です。この繰り返しで実績を積み重ねた結果、「こいつは仕事ができるなぁ、頼りになるなぁ」と期待され信頼されて、より大きなチャンスが与えられていくわけです。


もうホントそう。私もずっとこれを言いたかったような気がスル。(ズルい)。ようやく言語化してくれた。ここだけで他のビジネス書100冊分くらいの価値があります。

「頼りにされる」それに尽きる。あくまで受動態でなきゃいけない。頼りにしてくるのは他者。評価するのは他者であって、決して私自身ではない。だから意識が自分に向いていたら頼りにされることはない。どこまでも他者を意識しながら、他者のためになると「思われる」ことをやり続けるしかない。評価は後から付いてくる。

でも99%のことは自分が期待していた以上に評価されることはありません、悲しいけれど。肩たたき券であんなに喜んでくれたのはお父さんとお母さんだけ。自分がやったと思ったことの100倍薄まった分だけ評価されて、それを蓄積していくのが働くってことなんだと思う。だから、クサらずコツコツ頑張りましょう。



だめだ、他にもいっぱい素晴らしい言葉がありすぎて紹介しきれない。また次回!!