読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

焼肉屋とクレームブリュレと反抗期

先日、家族で焼肉屋に行った時の事です。
われわれ夫婦、兄夫婦、父母の6人でちょっと高めの焼肉屋に入りました。総年収4500万円以上のパーティーです。

天井が高くて、テーブルも広くて、肉一皿2600円くらいするだけあって味も素晴らしい。
店員さんは美人で上品で愛嬌がある。しかも兄の誕生日が翌日だったので、乾杯時に「誕生日おめでとう」と言ったところ、食後に、その店員さんが花火の付いたデザートを運んできてビックリ!

家族は誰もリクエストしていない、兄のことをそんなに考えている人はうちの家族にはいない。15年前に戦力外通告を出して家を出てもらったくらいだから。

店員さんが言う「乾杯の時に誕生日おめでとうと仰っていたので、記念日のお祝いなのかなと思って、準備させて頂きました」。

なんてこった!!こんなに素晴らしい店員さんがいるんですね。This is OMOTENASHIだ。家族も仕事も捨てて、美人で上品で愛嬌があって気が利くこの店員さんと駆け落ちしたい。うん、そうしよう、と決意をした時のことです。

隣りの席に、5人家族が着席しました。お父さんお母さんは40代後半くらい。お父さんはハゲてるけど身体は引き締まっていて、黄色のパーカーを着ています。デカい字でAUSTRALIAと印字してある。

お母さんの顔は良く見えなかったけど、これだけ高い焼き肉を食べに来れるんだから、きっと素敵なマダムに違いない。

子供は中学生くらいの娘一人、小学校高学年の娘一人、小学校低学年の息子一人。
父と長女が椅子側。母・次女・長男がソファー側に座りました。三対二になる訳だから、椅子側には当然空席が1つ出来ます。

その空席の位置!窓側でも通路側でもない、真ん中なの。つまり、父・空席・長女の順になっている。

そして長女はイヤホンをつけて音楽を聴きながらスマホをいじっている。出た―!反抗期の娘や。生で反抗期の娘を見たー。

さらに次女もスマホをいじってるし、長男はタブレットでゲームをしている。たぶん、次女と長男はスマホタブレットが楽しいからいじっている。休日しか触らせてくれないのかもしれない。さすがに小学校にスマホ持っていかねーだろ、この感覚古いのかな?私の時代はバトル鉛筆ですら怒られたのに。

次女も長男もデバイスをいじりながらもきちんと家族の会話に参加している、というか目線が上を向く時がある。一方、長女が出しているシグナルは完全に拒絶だ。

きっと焼肉屋に行く前もこんな応酬があったに違いない。

母「あんた焼き肉好きでしょ」
長女「うん」
母「昨日、給料日だったから夕飯は焼き肉に行こうと思って、たまには一緒に来たら?」
長女「あのおじさんも来るの?なら絶対に嫌!」
母「別に喋らなければ良いじゃない。席も離すから。好きなもの食べなさい」
長女「私は絶対に喋らないからね」

みたいな。

そこで母親がメニューを長女に渡して、好きなものを頼みなさい、と言いました。長女よ、好きなものを食え、うん、父ちゃんの金でいっぱい焼肉を食べなさい。それが父ちゃんの喜びなんや。たとえ席は離れていても。

何を食べるんだろう。耳を澄まして聞いてみる。

長女「クレームブリュレ。」

でたー!焼肉屋即クレームブリュレ奴!

肉食いに来たんじゃないのかいな。すごい拒絶。父ちゃん、焼肉屋連れてきた甲斐がまるでなし。お腹いっぱい食べることで、父ちゃんの稼ぎ⇒焼肉を腹いっぱい食う⇒長女の成長 みたいな、父ちゃんありがとーみたいな。少しの繋がりを期待できるじゃん。肉ってスペシャル感あるじゃん。はぁちゅうも肉会アプリ作るくらいだから。でも、だめだった。クレームブリュレだったもん。クレームブリュレは成長しない。特別感希薄。繋がり弱すぎ。これで「誰の金で飯を食えてると思ってんだ」という伝家の宝刀も通用しなくなった。「は?クレームブリュレですけど?」「自分でバイトして食べますけど?」で一発KO。コメがないならクレームブリュレを食べればいいじゃない?父ちゃんもう息してない。もう娘に父ちゃんはいらない。彼女はクレームブリュレで生きていくって決めたから。


なんだか、こっちまで父ちゃんがムカついてきた。不甲斐ないな、ほんと。なんだそのパーカーは。なにが「AUSTRALIA」だ。黄色過ぎるわ。そりゃ嫌われるわ。お前の肉なんて誰が食うか。まぁハゲてるのはしょうがない。もうね、これは遺伝子とかホルモンの話だから。あなたがコントロールできる次元の話ではない。これは仕方ない。でも、なんかこう。ハゲてるが何か?みたいな開き直りが表に出ちゃってるのが娘にとってマイナスポイントなんじゃないかな。もっと、こう、頑張ってる感を出した方が娘も好感を持てるんじゃないだろうか。まずは、パーカーを脱ごう。もうちょっとフォーマルな方が娘の好みなんだきっと。白のシャツに黒のジャケットで良いよ。シンプルイズベスト。ジャケットはフォーマル過ぎない感じのやつね。襟とかポッケにちょっと遊びがあるようなやつにしよう。それで、行こう。その恰好なら娘も馬肉ユッケくらい頼んでくれるよ、きっと。ちょっとだけスペシャル感出て、父娘の絆が深まるんじゃないのかな。

そんな地獄絵図の家庭に例の店員さんが切り込む。母と娘と店員さんでめっちゃ会話盛り上がってる。父ちゃんボッチ。と思いきや、ちゃんと父ちゃんとも話をする天使・店員さん。父ちゃん嬉しそう。店員さん、やっぱりあなたは凄い。あなたと結婚したい。いや、結婚はもう良いや。あれはおかしな制度だ、本当に。きっと結婚した瞬間、私と貴方の心に虚無が生まれ、日に日に肥大していくだろう。だから、このままの関係でいよう、それが一番良い、うん。

きっとこの美人で上品で愛嬌があって気が利く店員さんも中学時代は、キモくてウザい父親にシカトを決め込んでいたに違いない。でも、20歳になって、一人暮らしを始めて、いくつかの恋に破れ、いくつかの夢を叶え、ようやく父とちゃんと向き合えるようになったのかもしれない。それがこの気品、優しさに繋がっている。ハゲてて黄色いパーカーを着ているオジサンと初対面で気さくに喋れる余裕を生んでいる。

だから反抗期は過ぎ去るのを静かに待つしかない。台風と同じだ。自然の力に人間は抗えない。大人しくコロッケ食べてよう。

その様を隣で見ていた私の奥さんが言う

「子供いらない」。


うん、そうだね。大変そうだもんね。子供の反抗期なんて手におえないよね。僕もいらないよ、ははは。


帰り道、電車でギャーギャー騒ぐ子供たちを見て、私の奥さんが言う。
「子供、ドいらねぇ」。

そんな副詞の使い方あるんですね。知らなかった。また一つ賢くなりました。超弩級のドね。ドレッドノート戦艦のドね。

スマホの音声入力機能は?「いらん」
子供は?「ドいらん」
電子レンジの取り忘れ防止機能は?「いらん」
北にアゼルバイジャン東にパキスタン西にイラクと境を接する首都はテヘランイスラム国家は?「イラン」
娘は?「ドいらん」
OK、分かった。僕の負けだ。この話は辞めよう。もう諦めた。


今度はあの店で、乾杯する時に「子供欲しいかも」と言ってみよう。
そうしたら、あの店員さんが「あの・・・子供欲しいって仰っていたんで」と花嫁衣装で私の前に現れる。

そこで「やれやれ、結婚はもうこりごりだけど。もう一回信じてみようかな。でも反抗期の娘の対応は頼むぜ?」と言って二人は結ばれる・・・。

将来は黄色いパーカーを着て娘を焼肉屋に連れて行ってあげられる優しいお父さんになるんだ。
もちろん注文は「クレームブリュレ」で。