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「何もない」がある

音楽と本について書きます。日々考えたくだらないことも。

サラバ! 西加奈子

小説

 

サラバ! 上

サラバ! 上

 
サラバ! 下

サラバ! 下

 

 

 

 

ものすごい文字数と凄まじい熱量をもった物語です。

序盤の主人公は圷歩、という消極的で受け身ばかりだけど見た目だけは整った男の子。親の都合による海外転勤や、彼の周囲にいる風変わりな家族や知り合いなどの話を描いた、長い長いお話。話は長いですが、文章が軽快なのですらすらと読めます。

この物語はどこにもでもいそうな平凡な男が主人公なので、大きい事件は特に起きないし、大どんでん返しがあるわけでもありません。そう、あなたや私の人生と一緒です。でもそんな平凡な人生の中にも、ふと気づいたら人生がおかしな方向に進んでいる気がして、自分ではどうしようもできないと思い苦しくなることってありませんか。(私はあります)当たり前の人生の中にも死にたくなるような悲しい出来事や、天にも昇るような幸せな気持ちになることってありますよね(私はあります)。それはどれも唯一無二で汎用性のあるものは一つもなく、物語として語られることなく消えていきます。そんな数ある人生の一つがこの物語。物語を通して彼の半生を覗けば、なぜ彼がそんなに苦しみ、そんなに喜んでいるのかがわかるような気がします。事件もない、どんでん返しもない、でも唯一無二の彼の物語が、私の心を掴んで離さないのです。

ラストは、読みながら、とうとうと涙を流していました。日常の中で、何気ない一言が、胸にしみる時ってあるでしょう。この物語は、そういう物語なのです。よくよく考えてみれば何ということない話のはずなんだけど、この物語の熱量が、この物語の”必死さ”が読むものを客観的であらせてくれないのです。誰もが物語の中に引きずり込まれ、まるで自分も必死に生きているような錯覚を覚えさせ、感情の渦の中に巻き込んでしまうのです。とても素晴らしい本だと思います。

特に、30を過ぎ、何をやったら良いのか途方にくれている方。人生で何をしたら良いのかわからなくなっている方、そんな方への希望の書とは言い過ぎですが、「何か動き出したくなるエネルギー」はくれる本だと思います。